糖尿病とは、インスリン作用が不十分のために血糖値が高い状態が続くことで、
糖尿病性昏睡をはじめとする急性合併症、
糖尿病網膜症・糖尿病腎症・糖尿病神経障害をはじめとする慢性合併症、
脳卒中や心筋梗塞など生命に関わる重篤な合併症
を引き起こす病気です。
日本糖尿病学会では、
「インスリンの作用が十分でないためブドウ糖が有効に使われずに血糖値が普段より高くなっている状態」
と定義されています。
また、International Diabetes Federation (国際糖尿病連合)では、
「膵臓がインスリンを生成できなくなったり、体がインスリンを効果的に利用できなくなったりすることで起こる慢性疾患」
と定義されています。
Diabetes is a chronic condition that occurs when the pancreas can no longer make insulin, or the body cannot effectively use insulin.
International Diabetes Federation
糖尿病
糖尿病の症状
糖尿病の初期に症状はなく、痛みもかゆみもありません。
自覚症状がないこの時期に、高血糖により体中の血管が少しずつ、確実に傷ついていき、動脈硬化がすすんでいき自覚症状が現れるようになります。
糖尿病が進行していくと、次のような自覚症状が現れます。
- のどが渇く(口渇)
- たくさん水分をとる(多飲)
- たくさんおしっこが出る(多尿)
- 疲れやすい(易疲労)
- 体重が減る(体重減少)
これらの症状は、高血糖の状態でみられます。症状がでた時点では、体の血糖コントロールがすでに非常に悪くなっている状態であることが多く注意が必要です。
糖尿病が進行すると、からだのむくみ(浮腫)、尿量減少、食欲低下、全身倦怠感、手足のしびれ(末梢神経障害)、視力障害などの症状がみられるようになります。
高血糖の状態が持続し動脈硬化が進むと、体の末梢の組織に血液がしっかりといかなくなり、様々な合併症が出現するようになり、生命にも関わってくる状態となっていきます。
糖尿病の症状がみられるときは、血糖コントロールが非常に悪い状態か、すでに糖尿病による動脈硬化により血行が悪くなってしまっている状態です。症状が出て、糖尿病が進行してしまった状態では手遅れといっても過言ではありません。
残念なことに、血糖値をよくしても、動脈硬化で傷ついた体中の血管を元に戻すことはできません。
治療をはじめて血糖値を下げ血糖コントロールが良好な状態となっても、動脈硬化で血管がぼろぼろになってしまった身体では合併症がみられることになります。
そのため、糖尿病の治療をしているのに、治療で血糖値が正常値となったのに、「目が見えなくなった」、「人工透析をしなければならなくなった」、「脳卒中で倒れた」といったことになります。
糖尿病の末期では、治療をしていても合併症が進んでいきます。それでも血糖値が良い状態を維持し、少しでも合併症の出現や進行を遅らせるに越したことはありません。
糖尿病が進行していない初期の段階で対応していれば、症状がでることなく健康的に過ごすことも可能です。
健診などで早期に血糖が高い状態を発見し、症状がない時期から血糖コントロールをよくすることが重要である理由はこのためです。
糖尿病の原因
糖尿病は、インスリンの作用が不十分であるために血糖値が高い状態となることが原因で生じます。
血糖値が高い状態が続くことで、全身の血管を傷つけ、様々な臓器障害・糖尿病合併症を引き起こします。
インスリンは膵臓という臓器のランゲルハンス島という部分にあるβ細胞というところから分泌され、血液中の糖分(ブドウ糖)を体の細胞に取り込ませます。体の細胞は取り込んだ糖分をエネルギー源💪として利用しています。
インスリンが分泌されると、血液中の糖分が細胞内に移行し、血液中の糖分は少なくなるため血糖値が下がります。
インスリンは、食後などの血糖値が高くなったときには分泌され、空腹時のように血糖値が低いときには分泌されないため、血液中の血糖値を保つ働きがあります。
そのため、インスリンの作用が不十分だと血糖値が高くなります。
インスリンの作用が不十分となるのは、次のような場合があります。
- インスリンの分泌が少ない場合
- インスリンの作用が低下している場合
①インスリンの分泌が少ない場合
膵臓のβ細胞からインスリンの分泌が少ない場合、血液中の糖分を十分に下げることができないため、血糖値は高くなります。
膵臓に自己免疫や感染などにより炎症が起こり、β細胞が破壊されていくとインスリンの分泌ができなくなっていきます。遺伝や加齢もインスリン分泌機能に影響していますが、肥満などによる酸化ストレス、高血糖の持続によるβ細胞の疲弊もβ細胞の機能を低下させ、インスリンの分泌機能低下をもたらします。
インスリンがほとんど分泌されなくなった場合には、インスリンを注射等で補わなければ生きていくことができません。このような状態を「インスリン依存状態」といいます。
②インスリンの作用が低下している場合
細胞がブドウ糖を取り込むインスリンの作用が低下すると、血液中の糖分が筋肉や脂肪など体の臓器に取り込まれていかないため、血糖値は高くなります。
インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下し、インスリンの作用が低下してしまっている状態を、「インスリン抵抗性」といいます。
インスリン抵抗性の主な原因は、過剰な摂食と肥満です。
過剰な摂食により血液中の血糖や脂肪酸の濃度が高くなることにより、インスリン抵抗性を引き起こします。
また、過剰な摂食は脂肪細胞の増大をもたらし肥満となります。脂肪細胞が増大すると、脂肪細胞からインスリン抵抗性を引き起こす物質が放出され、インスリン抵抗性を引き起こします。
さらに、インスリン抵抗性の状態では、血糖を下げるためにより多くのインスリンが必要となり、血液中のインスリン濃度も高い状態となります。血液中のインスリン濃度が高い状態(高インスリン血症)は、インスリン抵抗性を引き起こします。
このような状態が続くと、インスリン抵抗性がさらに高まるだけでなく、インスリンを分泌する膵臓β細胞の疲弊や細胞障害によりインスリンの分泌が減るため高血糖を招き、さらなる悪化をもたらしていくことになります。
このように、高血糖そのものが、インスリン抵抗性を増強させたりインスリン分泌低下をもたらし、高血糖を増長する悪循環を形成する状態を「高血糖毒性(糖毒性)」といいます。